長靴日記5

長靴日記5 名前: ゴム長婦人 [2006/12/10,00:37:13] No.2119 返信
9月下旬のある日律子にとってこの世界に本格的にのめり込むきっかけとなる出来事 があった。この日は朝から記録的な大雨となり学校からの連絡網により保護者同伴で 登校する連絡があった。律子は学校指定の黄色い合羽を着て自慢の白い長靴を履き母 は見慣れたいつものレインコートに黒の膝寸までの長靴を履いて家を出た。通学路の 途中で用水が溢れれば危険な場所があったが律子達がそこを通った時はまだ溢れてお らず道路が浸水している所も僅かで律子親子にとって楽しい登校だった。大海原になった校庭を横切り児童玄関に入るとそこには色とりどりのレインコートや合羽に長 靴で身を固めた親子が大勢いたが、中には浸水した場所を歩いてきたのか短い長靴を 履いていた母親などが水没してしまった長靴を脱ぎ逆さまにして水を捨てたりしてい た。そんななかで2〜3人でたむろしていた母親たちから「これだけ長靴が多いとゴム 臭いね」と言う言葉が律子の耳に入ってきた。ゴム臭い・・そうか私の好きなこの匂 いはゴムの匂いだったのか・・律子はなにかしら新しい事を知り新鮮な気持ちになっ た。そのゴムの匂いに覆われた下駄箱に自分の長靴を入れると自分の教室に向かい合羽を脱いだが今度は自分の体から先程母親達が言っていたゴムの匂いがしてきて・・ どうして、なんで・・というさっきの新鮮さとは違った複雑な気持ちになった。それ でも教室に入り級友達と登校時の話などをしているうちにそんな気持ちはどこかに消 えてしまった。激しい雨は昼過ぎまで降り続いてようやく小降りになったが街のあち こちで道路が浸水や冠水しているため授業は5時限目で打ち切りとなり再び各家庭に連絡が行き保護者が迎えに来た児童から帰宅する事になり連絡が着いた児童から体育 館に集められそこから帰宅する事になった。律子が体育館に来て30分くらいしただ ろうか開け放された大きな扉の向こうから朝同様に大海原の校庭を母は茶褐色の水しぶきを上げながら歩いてきたがその母の姿を見て律子は驚いた。朝送ってもらった時 と全く違う裾が長くて少し広がったマントの様なフード付きのコート、それは律子が 今まで見たことの無いコート・・を着た母の姿だったからだ。きょとんとしている律子に「どうしたの」と声を掛けてきた母だが直に「ああ、このコートか、律ちゃん見た事なかったんや、このレインコートは今日みたいに大雨の時なんかでも外歩ける様にお母さんが前から持っていたんやって」と言った。「ああ、ほんなんや」と納得する律子に「合羽のボタンちゃんと留まってるね」と確かめると「さっ、帰ろうか」と母は言いながら再び大海原を茶褐色の水しぶきを上げながら歩き出した。周りにも同様の親子が何組もいたが母親達のほうが楽しそうに歩いている様に律子の目には映った。校庭を抜け5センチほどの深さに浸水した舗装道路をバシャバシャ歩き出すと母が「この辺はまだ律ちゃんの長靴でも歩けるけど北原用水が溢れてもてそこンとこの道はお母さんの長靴でもやっと歩けるぐらいやでぇーそこまでいったら律ちゃんはお母さんがおんぶしてあげるでね」と言い出した。「ほんな深いん」「ほや本当にお母さんの長靴で歩くのがやっとやったしぃー、長靴の中に水が入ってもた人も何人かいたんやって」「ふーん、ほんなんや、ほやけどお母さんにおんぶしてもらうなんて久しぶりやわぁ」「ほやねぇー」と二人は顔を見合わせながら笑った。それから十数分ででその場所まできたのだが律子は「どこまで私の長靴で歩けるか行ってみてもいいやろお母さん。」「ええけど長靴の中に水が入ってもたら変わりの長靴ないんやであんまり深いとこまで行ったらあかんよ」「うん」そう返事したものの律子が歩けたのはほんの十数歩だった。そこで律子がたちどまると母は少ししゃがみ込んで「ほらっ」と首を背中の方に向けて律子を促した。律子が背中に捕まると母は直に歩き出したがそれはここまでの歩き方とは全く違う水の中で足を一歩一歩すり足状態で前へ進む歩き方でレインコートの裾は水に浸かっていた。レインコートの裾が長いので母の長靴のどの辺りまで水に浸かっているのかは下を見ても判らなかったが長靴が浸水した状態ではない様に思われた。顔を上げて母の背中に顔をくっ付けて暫くすると律子は はっ とした。この匂いは朝玄関や合羽を脱いだ時のあの匂いと同じ匂い。このマントの様なコートもあのゴムの匂いっていてた匂いと同じ匂いがする。そしてその匂いは律子が好きになる匂いになった。